A 集いしエージェント〜五断ストーリー

 どのように仲間を動かすか。相手の組織の状況や、そのエージェント個人の性格を把握しておくことが、俺のやり方だ。インスピレーションで相手の考えを読み取る嫌なエージェントもいるが、俺にその能力はない。自分の能力を把握することも重要である。

 

 

 組織Aのエージェント「ユキト」は、なかなかの秀才である。

 

 こいつは、容赦無く他人の稼ぎを強奪し、そして有り余る才能で場を引っ掻き回し、気まぐれに場を締める。一人高い玉座に座り、下々の狂乱を楽しんでいるかのように。その猫のような気まぐれさに泣かされ、膨大な損失を被り、狂人のようになって去っていくエージェントを何人も見ている。その銀色に光るような、血の通わない無機物のような細い指先で、今まで何人ものエージェントの運命を翻弄してきたのだ。今回も、噂に聞くに同じく、黒いスーツに、さもお遊びに来ました、とでも言うような、白いTシャツをラフに着ている。その、俺の緊張感を鼻で笑うような爽やかな白は、無表情の彼の端正な顔を俺の頭に焼き付けるように反射させていた。

 

 

 そして組織Bのエージェントは器量の良い女だ。

 

 その小さな顔に、潤いのある大きな瞳が、思わず目を引く。優しげなその顔、表情を、彼女は自分で認識し、上手く自分の策に使っている。そう、彼女は、人に恨みを買うような無謀なことはしない。むしろ、窮地に陥った人間に、その美しい顔をそっと向け、優しく微笑み、自分の身を危険に晒してまで助け、貸しを作るようなことをする。そして、人情に訴えかけ、潜在的なマイナス点を出来るだけ、削いでいくのだ。ある意味、「ユリ」が最も賢く、用心しなければならない相手かもしれない。

 

 

 そしてもう一人が、「ジュン」である。

 

 こいつは、俺が一度いいように利用して、金を稼がせてもらった相手だ。こいつから金を奪うのは、とても容易かった。終始ビクビクし、肩を震わせているような臆病なやつなのだ。気に障る。俺からすれば、こいつを雇っている組織の気が知れない。そんなふうに俺がこいつを嫌っているのと同じように、あいつも相当俺に恨みを持っているということは、噂で随分聞いている。しかし、それも全ては、然るべきタイミングを見誤り、切り札を出し渋ったあいつが悪いのだ。しかし、この世界では、「やられたらやり返す」は当たり前なのだ。人間を相手にしているこの世界で、得た金と名声よりも重く、恐ろしいものが、この恨みというやつかも知れない。