B 連合への誘い〜五断ストーリー

 いつもは、言うまでもなく自分の組織を守り、他の組織を陥れ利益を上げる為、単独行動を主としているのだが、時には他のエージェントと連合を組むことがある。

 

俺は主義として連合は組まない。

 

しかし、今回ばかりは話が別だった。

 

 いつもの黒塗りのテーブル。席に着き、やかましい心臓の鼓動を落ち着ける間もなく、あのユリが、大きな目を瞬き、目配せをしてきたのだ。そして、あのジュンにも目配せをしている。

 

 

ユリは、最も手強いユキトを、連合を組む事で確実に失墜させようという作戦を持ちかけているようだ。

 

 

もちろん、言葉を交わす機会は無い。他の者に悟られないよう、ふとした視線の交差、指先の動き、仕草で意思疎通をしなければならない。

 

 俺としては、一度利用したジュンと組む事は何より避けたかった。人間は、どう足掻いても人情からは脱却しきれない。あいつは、今でも俺を恨んでいる。俺に大敗を喫し、組織から酷な仕打ちを受け、女のような小造りの綺麗な顔や、その小さな身体中に、闇にも白々と冴える包帯を巻き付けていたのは記憶にも新しい。そんな奴を仲間にし、自らの手の内を見せ、共謀することなど。リスクが大き過ぎる。俺は、冷たい椅子の背もたれに熱い掌を押し当て、跳ね続けるこの心臓の鼓動をどうにか静めたかった。

 

 しかし、それより早く、ジュンは、ユリの誘いに乗ったらしかった。邪念を疑われないよう、ジュンは献身的に仲間の作戦の為に尽くすだろう。時には、自分の身を危険に晒して。しかし、俺の弱みを握り、確実に貶める機会を掴んだその時、あっさりと連合を裏切り、無関係なユリを犠牲にしてまでも、俺に逆襲の罠をかけるだろう。俺ならば、そうする。奴は、どうだ? あのユキトを目の前にしても、そんな悠長なことが出来るような奴か? しかし、ジュンの目は、一度も俺を見ない。唇が微かに俺のほうに動いている。やはり、連合に参加する合図だろう。その生意気な唇の宣言は、俺への恨みよりも、今は難敵であるユキトを三人で攻略することを選んだということを語っていた。そういうことなら、俺もその誘いに乗るのが得策だろう。それほどまでに、ユキトは恐ろしい相手なのだ。

 

 俺は、ここのところ負けが込んでいて、強敵であるユキトを前に、これ以上金を奪われることは許されないのである。組織にマイナスは出ていないものの、今回だけは、負けるわけにはいかない。かつて、俺も運を味方につけ、随分と恐れられたこともあったのだ。その名誉も今や、記憶するのは自分だけ。あれだけ俺を持ち上げていた組織の仲間たちが、今度はまるで最も恐ろしい敵の如く、無言の圧力をかける。背後から静かに、確実に。しかしその反面、この連合を成功させ、あのユキトから金を強奪することに成功すれば、その利益を三人で割ったとしても、かなりの儲けになる。俺の命も、その金で拾うことが出来るのだ。その上、ユキトを排除出来れば、我々にとっての大きな脅威を一つ無くす事も叶うのである。つまり、ユキトの排除は、もともとは敵対する我々三人のエージェント同士が共有し得る、唯一の目的であったのだ。

 

 

結末は・・・付属のショートストーリーで。

 

 

C 水面下

 

D 決断と代償