裏世界で暗躍するエージェントに独占インタビュー?

彼らは善良な人々の前に、エージェントである姿を見せることはしない。
人知れず、ごく普通の一市民として生活をしていることだろう。
残っている痕跡も本当にわずかだ・・・

 

小さな痕跡を、拾い集め、一本の細い線へつなぐ・・・私はようやく取材をすることができた。

 

以下は、明かされることのない、彼らエージェントが取材に応えてくれた貴重なインタビュー記事である。

 

彼らにとって取材は未体験のことだったらしく、いつもよりきっと口が軽くなっているのかもしれない。それほど、にこやかで楽しげな姿さえ見せてくれた。

 

いや、多少の不都合のことが起こったとしても、それを自分自身の手でひねり潰せる自信があるから・・・・か。
一介のライターである、私のことなど小うるさい羽虫程度にしか感じていないからかもしれない・・・・ 

(取材  泉 庄一朗) 


ユキト  (FUGA所属)

 身長は180手前。いや、嘘じゃない。手前、ってのは嘘じゃないでしょ。体重も標準。この骨張った骨格だけは、俺の美意識には合っていない。まあ、しょうがない。

 

 目はそれほど悪いわけではないが、銀縁の眼鏡をかけている。これは、いつぞやの女に買わせたものだ。ノーブランドらしいが、なかなかセンスがいいので、その女の顔はすっかり覚えていないが、未だに使っている。それをあいつは、「信じられない」といつも言う。まあ、俺から言わせれば、「信じられる」性格のやつが、こういう「エージェント」の仕事なんかしないだろ? って話なんだけど。

 

 俺の組織は「FUGA」。「フーガ」、だ。俺たちの仕事のスタイルは「風雅」。一番の強奪者であり、そして決して仕返しなどはさせない。なぜなら、叩きのめす場合は、再帰不能になるほど徹底的にやるからだ。繊細に、大胆に。美しく勝ってこそ、真の勝利。
 そして、万が一、窮地に陥ったら。その時は、華麗に「逃走」=「(伊)FUGA」する。何も、恥ずべき事は無い。俺のこの無駄に長い手足はその為だろう? 

 

 神経質、ともよく言われる。例えば、この眼鏡も、あいつに言わせれば、俺は1分に1度は拭いているらしい。服も、必ずアイロンかけさせるし。

 

 えーと、あと、何話せば言いわけ? ああ、「あいつ」のこと? さっきから何回か出て来る「あいつ」? 俺の女のこと。まあ、それは本人から聞いてくれ。

 

 後は…何だ。好きな食いもんとか? 肉はあまり食わない。主義とかでなく、単にあまり口に合わない。あと、炭酸の飲み物なんかは、絶対に飲まない。あれ、そんな美味い? 酒も、ロックで飲めよ、ソーダで割ってんなよ、諸君。

ユリ  (MARIA所属)

「あいつ」です、って言ったほうがいい? あ、これ知ってる人いないから、絶対に内緒にしててね。仕事にも差し支えあるし。人間的に破綻してるよね、ユキト。「好きな食いもの」って言いつつ、嫌いな食べ物言ってるし。

 

 私は、同じエージェントでも、合い言葉は「最低限」。人を傷つけるのも「最低限」だし、手を貸すのも「最低限」。その「最低限」が積み重なると、大きなものが自分に返って来る。素敵でしょ? この仕事の仕方。ある意味、ユキトよりスマートじゃない?

 

 えっと、女の子なので、とりあえず外見の説明してもいいかな。背は160くらい。髪はロング。絶対に、ロング。髪色は、黒。これも、絶対。顔は、小さい。え、嘘じゃないよ。ほんと、このくらい…ってわかんないか。

 

 男の子は寄って来てくれるんだけど、何故かあんなやつと付き合ってる。顔はいいの、とっても。少しはかわいいところもあるんだけど……。でも、別れた女からもらった眼鏡、ずっとかけてるって、あり得る?? 信っじらんない!! いつか踏みつけて壊してやろうと思ってるところ。

 

 私の組織は「MARIA」。百合=マリア、でしょ。宗教画、見てみて。そういう安易な感じでつけるの、大概、名前ってものはね。そうそう、でもやっぱり組織には女の子が多いかな。その方がやりやすいし。もめ事も少ないしね。

 

 そして、儲けが少なそうな時は、聖母のように困った人に手を貸すっていう場合がある。これは、種蒔き、みたいなものよ。後で、お腹が空いた時に、ちょうどいい果実が収穫出来るはず。その時蒔いた種子が、自己犠牲を払ってくれる。その甘さは、恍惚。美しい信仰心みたい。

 

 ああ、お固い話ばっかりで、お気の毒。じゃあ、あとは、私の好きなブランドとか教えればいい? え、メモの準備できた?

ジュン  (1POUND所属)

 あんまり、自分のことを語るような趣味はないんですけど。とりあえず一言でもいいってことなんで。

 

 よく言われることから。この髪型は、好きでやってるわけでは、決してありません。髪質が、柔らかいんで、こんな、いわゆるマッシュルームヘア、になってるだけで。ええ。
 あ、まあ、こうして前髪を分厚くすると、目が隠れるんで、仕事上いいこともありますよ。すぐ、顔に出るんで。

 

 だから、この仕事は、本当は向いてないと思いますよ、自分でも。でも、結構学歴がいいってだけで、エージェントに抜擢されちゃったんすけど。でもだから、自分でも、エージェントとしては、決して優秀な方ではないってことが、自分が一番よくわかるんで、複雑ですけど。

 

 ……こういう、キャラを、周りには見せるようにしてます。いや、髪型と、学歴結構いいのは本当なんですけどね。

 

 いろいろ考えて、あえて一度軽く勝負に負けて、その相手に隠れた脅威を埋め込むってのは、結構いい策ですよ。それには、こういうキャラが都合いいんで。あと、仲間に頼んで、かるーく、フェイクメイクしてもらって。青あざ、みたいな? みんな、それで「こいつからなら、いくらか稼げる」ってなめてかかってくれるんで、手の内見放題。墓穴掘らせまくり。落としまくり、みたいな。

 

 自分の属する組織は、「1POUND」。そう、「イチポンド」。金でこの肉体が奪われるこの世界で、この頭脳を使って、そのしがらみから逃れる。1ポンドも、奪われてたまるか。

 

 何? 好きな食い物? チョコだよ。なんか、文句ある?

「俺」は、誰でもない。君、もしくは、あなた。